2011年6月19日日曜日

笹本征男さんのこと―封印された原爆報告書―3/5

笹本征男さんには自著「封印された原爆報告書」の他に、占領軍に関係する翻訳書がある。2003年2月「占領軍の科学技術基礎づくり―占領下日本 1945~1952―」がそれだ。河出書房新社から(ISBN4-309-90524-2)出版されている。
 笹本さんはこの書籍の訳者あとがきに次のように記している。(部分)
「私がディーズ氏とお会いしたのは、1990年頃、御茶ノ水の中央大学80年館のロビーに於いてであった。中山茂先生の序文にあるように、その時は「戦後科学技術の社会史」の何人かのメンバーと共にインタビューのためにお会いしたのである。(中略)その頃から、私は中山先生や他のメンバーのもとで占領史を勉強し、その成果は「通史:日本の科学技術」(学陽書房)の中に何本かの論文として発表することができた。それから2年ほどたった1997年、ディーズ氏の本書が出版されたのである。そうしたある日、中山先生が「笹本君、ディースさんの本を訳して見ないか」と言われ、しばらくして先生から原書が送られてきた。原書の見返しにはディーズ氏の自筆で中山先生への献辞が書かれてあった。私は先生の言葉を喜んで受け、本書の翻訳を始めたのである。」
 戦後の、非戦の誓い新たな日本の未来を見据えた筈の「日本の科学技術の育成」を占領軍側からどのように見ていたのか?笹本さんにとっても実に興味深い作業であったに違いない。
 実は日の目を見なかったらしい翻訳の仕事も幾つか在った。題名は忘れたが米国本土から離れて海外に駐留する米軍軍人・軍属の性病罹患率が、基地毎に統計された資料などが多数含まれていた。
世界の警察を自認する米軍軍人・軍属の影の部分を扱った論文で確かアメリカで公表されていた論文だった。数表の部分を正確に翻訳書に転記する為に、小生が論文の数表部分をスキャンして、エクセルに取り込み彼の翻訳に張り付けていった。性を生業として生きざるを得なかった人々の数と、罹患した様々な性病の名が列記されていたのを記憶している。彼に分厚いガイドブックを渡して「エクセル」の使い方をトレーニングしていた事も懐かしい。
 戦後の科学技術は、少なくとも原子力に関してはこの「原爆調査」で明らかなように、占領軍に管理されるなかで本音と建前を使い分けながらスタートする。“ABCC”の発足、日本側窓口としての「予研」の存在、そして「放医研」は原子力産業がスタートを切ると共に1957年に開所する。
 その理念は「放射線と人々の健康に係る研究開発に取り組む国内唯一の研究機関」として、「人類は有史以来、様々な形で放射線と関わってきました。現在では、人々は医療をはじめとする様々な分野でその恩恵を受けることができるようになりましたが、その反面、放射能汚染や放射線被ばくによる環境や健康へのリスクが重要な課題となっています。人々が安全に放射線の恩恵を享受するためには、そのリスクに対する評価を常に行っていく努力が求められているのです。
独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研)では、1957(昭和32)年の創立以来放射線と人々の健康に関わる総合的な研究開発に取り組む国内で唯一の研究機関として、放射線医学に関する科学技術水準の向上を目指して活動してきました。」と書かれている。

 大内久さん、篠原理人さんのお名前を御記憶だろうか?

 現在も含めて戦後の日本は「想定外」と言う言葉を実に豊富に使う。責任逃れの常套句である。原子力発電所の安全性については常に万全の設備を有していると言いながら、事故が起こると常に「想定外」のトラブルとする。東北太平洋沖地震の際の東京電力の発言も然り。
 大内久さんと篠原理人さんは1999年、住友金属の「想定外」によって、中性子を浴びて放射能障害で殺された。当時子会社のJOCに勤務しておられた。同じ作業をしていて被曝されたもう一人の作業員の横川さんはその後如何されておられるのだろうか?
 原子力施設で放射線を浴びた労働災害の時は、原則として千葉の「放医研」が通常受け入れ施設となる。JOC臨界事故の際も当初はこの「放医研」に救急車で運ばれた。福島原子力発電所にも、この研究施設の「研究者」が現在は常駐しているのではないだろうか?
 大内久さんは、篠原理人さんは、その人生の最後を東大病院で迎えられた。「放医研」は、医療施設ではなく研究機関であるらしい。原爆被爆者とは無縁な研究機関は、原子力発電の労働災害として被曝したお二人をも結果として治療も、見守る事も出来なかった。ABCCと同じか!
 この間の詳細についてはNHKが東大での献身的な医療物語として取材・番組化し、その後出版されている。現在は新潮社から文庫本も出版されているので、入手し易い。是非、ご一読をお勧めする。「朽ちていった命」-被爆治療83日間の記憶-NHK「東海村臨界事故」取材班ISBN978-4-10-129551-0

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