最後に、笹本征男さんの詩集「いずも」から、私は、笹本さんほどには覚悟が出来ていないけれど彼の力強い詩をひとつご紹介してこの文を終えよう。
奪う
約1年前、私から右大腿部の股関節を奪った
それから、1年後、胃を奪う
次はどこを奪うのか
右足が日々健康を取り戻し、
杖の私と会った多くの友、親しい人々
あの時間を奪うことはできない
私とその人々の間に生まれた生の感覚を奪えない
告知された外科診療室から、三階の病室に帰る時
体の深いところから湧きあがったのは
奪うことのできない時間のいとおしさだった
この体の全て、腕、足、胸、指・・・・・
生きている
過ごしたあの精気に満ちた日々
根源としての存在
病室には、胃潰瘍と思って見舞ってくれた友がいた
彼に最初に告げることができたことが、うれしい
二階の待合室の長椅子で
二人は外の景色を見ながら
静かに、語った
奪え
奪え
奪え
しかし、奪えないものもある
ガンよ 2003年8月15日午後5時20分 記
0 件のコメント:
コメントを投稿